6月1日 ある判決が最高裁で下りました。

長澤運輸事件 とよばれるこの事件は、定年後の再雇用いわば嘱託労働者において同一労働同一賃金を認めるか否かが争われていましたが、最高裁は賃金を引き下げることを認める判決を下しました。

ただ最高裁は、賃金格差が不合理かどうかについて、給与や手当など各賃金項目の趣旨を個別にみるべきだとする判断を示し、同時に、待遇に差を設ける場合に企業は、理由を十分に説明する責任があることを銘記すべきだ、としています。

横浜市の長沢運輸のトラック運転手3人が、定年前と同じ仕事なのに賃金を2~3割引き下げられたのは不当と訴えていました。
一審の東京地裁は会社に定年前と同水準の賃金支払いを命じたものの二審の東京高裁は定年後の賃金引き下げが社会的にも容認されているとし、原告側の逆転敗訴としました。

最高裁は、定年後の再雇用では長期雇用が想定されておらず、一定の条件を満たせば老齢厚生年金の支給もあることなどを考慮。給与や手当の一部、賞与をカットしたのは不合理ではないとしました。

 

日本企業は一般に、長く勤めるほど職務遂行能力が高まったとみなして賃金を上げていきますが、人件費を抑えるため、定年制という形で一定年齢に達したら雇用契約を解除し、定年後の再雇用にあたって定年時の賃金を維持することは想定をしていません。
こうした実態を最高裁判決は踏まえたものといえ、企業が希望者について定年後の雇用継続を義務づけられていることを考えれば、人件費増で経営が圧迫されることを防ぐための賃金減額はやむを得ない面もあることは合理的であると考えられます。
もちろん、説明のつかない待遇格差は働き手の納得を得られず、是正していかなくてはならないのは言うまでもありません。

長澤運輸事件最高裁判決はこちら

同時に判決のあった、正社員と契約社員で手当の支給に差をつけることが違法かどうかが争われた裁判(物流会社ハマキョウレックス事件)で最高裁は、通勤手当や無事故手当、皆勤手当などでの格差を不合理としました。

東証一部上場企業である大手物流会社の支店において、有期雇用契約に基づき勤務する契約社員(一般貨物自動車の運転手。原告)が、被告会社に対して、正社員と同一の権利を有する地位にあるとして、労働契約法20条に基づき、以下の支給を求めていました。

  • 正社員に対して支給される賃金との差額
  • 無事故手当
  • 作業手当
  • 給食手当等の諸手当
  • 正社員に認められる定期昇給
  • 賞与
  • 退職金

これに対し、大阪高等裁判所は、原告の請求を一部認め、被告会社に77万円の支払を命じる旨の判決を下しました(以下「本件高裁判決」といいます。)。
本件高裁判決は、通勤手当以外の無事故手当や作業手当、給食手当等についても契約社員に対して不支給とすることは不合理な相違として労働契約法20条に違反すると判示し、本件一審判決を一部変更して原告に有利な判決を下しました。

ちなみに労働契約法第20条とは…

「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲 その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と規定しています。

つまり、正社員と契約社員で同じ内容の仕事をしている場合、労働条件の違いに不合理があってはならない、ということです。

今回の判決で、正社員と契約社員で同一の労働をしている場合、労働条件の相違が不合理といえる、と判断されたものは、次の通りです。

  • 無事故手当
  • 作業手当
  • 給食手当
  • 通勤手当

次のものに関しては相違があっても不合理とは言えないと判断されました。

  • 住宅手当
  • 皆勤手当

理由はそれぞれ次の通りです。

住宅手当に関しては、正社員のみ転居を伴う配転(転勤)が予定されており、配転が予定されない契約社員と比べて、住宅コストの増大が見込まれることからすると、正社員へ住宅費用の補助及び福利厚生を手厚くすることによって有能な人材の獲得・定着を図るという目的に照らして、正社員に対してのみ住宅手当を支給することは「不合理と認められるもの」に該当せず、労働契約法20条に違反しない

皆勤手当に関しては、契約社員については勤務成績は契約更新時の時間給の見直し(時間給の増額)が行われることがあり得ることから、正社員にのみ精勤に対するインセンティブを付与する目的で皆勤手当を支給することは、「不合理と認められるもの」に該当せず、労働契約法20条に違反しない

 

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この記事を書いた人

ひだまり社労士