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「そろそろ辞めてもらいたい」——そう思ったとき、いきなりの解雇に踏み切るのはリスクが大きすぎます。実務でまず検討すべきなのが退職勧奨(自発的な退職を促す説得)ですが、ここにも「越えてはいけない一線」があります。
本記事では、実際の裁判例をもとに退職勧奨が違法になる境界線と、社員から断られてしまった後にどう対応すればよいかを、中小企業の実務担当者向けにわかりやすく解説します。
退職勧奨とは?解雇との違い
退職勧奨とは、会社が社員に対して自発的な退職を促す「説得行為」です。解雇のように会社が一方的に労働契約を終了させる法的効果はなく、応じるかどうかはあくまで社員本人の自由です。この点が、解雇との決定的な違いです。


ただし、退職勧奨も「社会通念上相当と認められる範囲」を超えると、違法な権利侵害(不法行為)として会社が損害賠償責任を負うことになります。
違法になる退職勧奨の境界線(裁判例で解説)
裁判所は、退職勧奨が違法かどうかを、①言動の内容、②面談の態様(回数・時間)、③本人の言動(拒否の意思表示の有無)といった要素で判断しています。実際の裁判例を見てみましょう。
| ⚠️ 違法とされた例 | |
| 下関商業高校事件 (最判昭55.7.10) | 数か月間で10数回、1回20分〜1時間余りの面談を繰り返し、「退職するまで続ける」旨の発言も |
| エム・シー・アンド・ピー事件 (京都地判平26.2.27) | うつ病から復職した社員に計5回の面談。拒否の意思を示しても解雇の可能性を示唆し継続 |
| ✅ 適法と判断された例 | |
| 東京地判平31.2.27 (C社事件) | 労働者が退職勧奨を即時に拒絶、または明確に拒否の意思を示した後は勧奨を継続しなかった |
分かれ目は明快です。「拒否の意思が示された後も続けたか、そこで止めたか」——ここが適法・違法の最大のポイントです。
断られたらどうする?「認識の歪み」を修正する
社員本人が納得していない状態で退職勧奨を繰り返すと、違法リスクが高まります。かといって、拒否された後にまったく違う理由もなく漫然と勧奨を再開することも、リスクが上がる点に注意が必要です。
ここで有効なのが、本人の「認識の歪み」を修正するプロセスに切り替えることです。問題社員の多くは「自分の働き方に問題はない」「会社は大した対応をしない」といった誤った思い込みを持っています。この状態のままでは、いくら退職を打診しても納得は得られません。
- 会社が求める業務水準を明確にし、業務日報等で日々具体的にフィードバックする
- 改善が見られない場合は、懲戒処分の手続きを進める
このプロセスを通じて、本人に「会社の対応はこれまでと違う」と認識させることができれば、改めて退職の話し合いをした際に合意しやすくなります。実際に、指導開始からわずか2〜3週間で本人から退職の申出があった実例もあります。
退職勧奨後の配置転換にも要注意
退職を拒否された直後に配置転換や降格を行うと、「報復人事ではないか」と争われやすくなります。ある裁判例では、営業成績不良を理由に退職勧奨を受けていた社員が拒否を続けたところ、会社が課長職を解いて倉庫業務へ配置転換し、賃金を大幅に引き下げたケースがありました。
裁判所は、本人の能力不足ではなく業務の性質による成績不振であったこと、倉庫業務にはそれほどの人員が必要なかったこと、本人の持病により配転先の主要業務(運転)に従事できなかったことなどから、この配置転換を「報復目的」と認定し、無効と判断しました。
配置転換を行う場合は、人員不足の状況や本人の適性等、業務上の必要性を裏付ける具体的な事情を整理しておくことが欠かせません。
適法に進めるための5つのポイント
- ①面談は少人数・短時間で、目安3〜4回程度まで
- ②「断ってもよい」と明示する
- ③人格否定・脅迫はしない
- ④拒否されたら無理に続けない
- ⑤面談内容を記録に残す
合意できたら:退職条件と合意書のポイント
合意による解決を後押しするのが、前向きな退職条件の提示です。退職金の上乗せや会社都合退職としての扱いなど、本人が納得しやすい条件を用意しましょう。
そして、口頭の合意だけでは撤回やトラブルの火種になります。退職日、退職金の有無・金額・支払時期、退職事由、有給休暇の扱い、貸与物の返還、清算条項(※)を明記した退職合意書を、必ず書面で取り交わしてください。

※ 清算条項とは、『これ以外に、お互いに債権も債務もありませんよ』と確認する条項です。これがないと、後から『やっぱりあれも払え』みたいな話が蒸し返される可能性があるので必ず記載しましょう。
まとめ
退職勧奨の適法・違法を分けるのは、話し方のテクニックではなく、「拒否された後、止められるか」という一点です。断られたときこそ焦らず、指導・懲戒のプロセスに立ち返り、本人の納得を引き出す——それが、会社と社員双方を守る一番の近道です。
ご不明な点がございましたら、ひだまり社労士オフィスまでお気軽にお問い合わせください。
